生前贈与と不動産の名義変更について

生前贈与とは、自分が亡くなる前(生前)に、配偶者、子、孫または第三者に不動産や金銭などの財産を贈与することです。

本ページでは生前贈与のメリットやデメリット、不動産を生前贈与した場合の名義変更登記手続きの流れを解説しています。

目次

生前贈与を行う場合の税

生前贈与は、贈与税がかからない範囲で行うことを検討されることが多いと思います。

ここでは、まず基本的な贈与税の制度について説明します。
※税に関するご相談が必要な方には、専門家である税理士をご案内させていただいております。

暦年課税による贈与

暦年課税による贈与とは、1年間に、贈与により取得した財産の合計額が110万円を超える場合には贈与額に応じた税率の贈与税が課すものです。

よって、110万円以下の金銭や不動産などの贈与には贈与税が課されません。

また、この贈与では、贈与する人および贈与を受ける人の年齢制限などはありません。

ただし、相続開始の7年以内に贈与者の相続人が贈与を受けていた財産は、相続財産に含まれることに注意が必要です。
(相続開始前3年を超える財産については、その財産の合計額から100万円が控除されます。)

つまり、将来相続人となる人へ、相続財産に含まれないように暦年課税の贈与を行う場合は、長い期間が必要となります。
※遺言により遺贈を受ける人についても、相続人と同じ取り扱いが適用されますので注意しましょう。

なお、あらかじめ決めた金額を、毎年分割して贈与する定期贈与は、分割した額が110万円以下でも暦年課税による贈与とは認められませんので注意しましょう。

相続時精算課税による贈与

60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対しての贈与は、1年間に贈与により取得した財産の合計額から110万円を控除後、相続時精算課税の特別控除額である2,500万円を超える部分について一律20%の贈与税が課税されます。

つまり、贈与時にはまず110万円を控除し、さらに上限2,500万円までは贈与税が課されず、2,500万円を超える贈与分には一律20%の贈与税が課されるのです。

相続時精算課税では、大きな財産を非課税で贈与できますが、贈与する人と贈与される人の年齢や関係に制限があること、特別控除額を相続財産に含めて相続税が算出されることに注意が必要です。

※相続時に相続財産に2,500万円までの贈与額を含めることによって、相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人✕600万円の合計額)を超えた場合には、相続税が課されます。

一方、2,500万円を超える贈与があり、贈与税を支払った場合でも、相続時に相続税の基礎控除額を超えない場合は、相続税が課されないうえ支払済みの贈与税は還付されます。

生前贈与のメリット

生前贈与には次のようなメリットがあります。

1相続税の負担軽減になる

所有する財産をあらかじめ移転しておくことにより、相続税対策になります。

2財産管理が容易になる

高齢の方が多くの財産を所有したまま、認知症などにより自分の財産を管理する能力がなくなってしまった場合への備えができます。

たとえば、あらかじめ自分の生活や医療費に必要な財産以外を相続人に移転しておくことで、認知症になった場合なども財産管理が容易になります。
財産を相続財産と信託財産に分ける家族信託に比べ手続きが容易です。

3争族を防ぐことができる

贈与を受けた者との間の信頼関係やコミュニケーションが増し、相互理解が深まることから、争族対策になります。

また、贈与を受けた人の財産の使い方を見て、遺言で相続分を指定する際の判断材料にもできます。

生前贈与のデメリット

生前贈与には、次のようなデメリットがあります。

1生前贈与したものを返してもらうことはできない

生前贈与すると、生前贈与した物の権利は贈与を受けた人に移り自由に処分することができます。

生前贈与したことにより医療費や生活費が不足した場合にも、原則として返してもらうことはできません。

2贈与税の申告手続きが必要になるうえ計算が複雑になる

基礎控除額以上の生前贈与を受けた場合には、贈与税の申告手続きが必要になります。

相続時精算課税を選択した場合には、贈与時の申告と相続時の申告手続き両方が必要になることがあります。

3生前贈与によりむしろ争族になるおそれがある

生前贈与を受けた人に対して、贈与契約には含まれていない介護や生活の援助を強制したりすると、争いになるおそれがあります。

また、生前贈与を受けた人が、生前贈与した人の相続人から非難され、争いや訴訟に発展するおそれがあります。

※生前贈与を受けた者とそうでない者との間で相続時にトラブルにならないよう、遺言書を作成して遺産の分割方法の指定などをしておくことも大切です。

生前贈与を検討した方が良い場合

生前贈与にはメリット、デメリットがありますが、次のような場合は生前贈与の検討をおすすめします。

1 すでに多くの財産がある

相続時の基礎控除額を大きく超える不動産や金銭などの財産を保有している場合、生前贈与の検討を早めに始めることが重要です。

暦年課税による贈与を長年続けることにより、相続時の財産を減らすことができます。

2 相続時のトラブルを未然に防ぎたい

子が複数人いる場合で、特定の相続人に特定の財産を生前贈与しておくなどにより、遺産分割時における相続人同士のトラブルを防ぐことができます。

分割が容易にできない不動産の生前贈与は、特に効果があります。

3 収益不動産がある

収益不動産を生前贈与し、賃料収入を子などに移転することにより、相続税を抑えることができます。

相続時精算課税を用いる場合、相続税の計算は贈与時の価格で行いますので、値上がりしそうな財産を生前贈与しておくことにより、相続税対策になります。

生前贈与の検討を行わなくてもよい場合

一方、相続財産が相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人✕600万円の合計額)内に収まりそうな場合には、相続による名義変更の方が、登録免許税などの税負担が少なくて済みます。

相続財産の計算方法はこちら→

不動産を贈与した場合の
名義変更手続きの流れ

不動産を生前贈与した場合は、贈与した人から贈与を受けた人に名義変更の登記をするのが一般的です。

贈与による名義変更の登記は所有権を全部移転する場合と、非課税の範囲で持分を移転する場合があります。

手続きの流れを解説します。

STEP

贈与契約書を作成します

贈与契約は口頭でも成立しますが、書面により贈与契約当事者や贈与の日付を明確にしておくことをおすすめします。

書面にしておくことで、贈与の履行がされなかったり、税務署から説明を求められた際に備えることができます。

なお、贈与契約書には、贈与の内容や価額に応じた額の収入印紙を貼付する必要があります。

STEP

必要書類を用意します

上記の贈与契約書に加えて、贈与する人は次の書類が必要になります

  1. 贈与する不動産の権利証または登記識別情報
  2. 登記申請日前3か月以内の印鑑証明書
  3. 固定資産税評価明細書または固定資産税評価証明書

※印鑑証明書の住所と登記簿上の住所が異なっている場合は、前の住所の記載がある住民票および住所変更登記が必要になります。
※農地の場合は、農地法の許可書又は届出書が必要になります。

贈与を受ける人は、住民票が必要になります。

STEP

管轄の法務局に登記申請を行います

登記申請書を作成し、不動産の所在地を管轄する法務局に贈与を原因とする名義変更登記を行います。

登記申請に当たっては、固定資産税評価額×2%の登録免許税を法務局に納める必要があります。

住所変更や氏名変更の登記が必要な場合は、名義変更登記にあわせて住所変更や氏名変更の登記が必要になります。

登記申請にあたっては、原則として土地建物1筆当たり1,000円の登録免許税を法務局に納める必要があります。

STEP

贈与税などの申告・納付を行います

贈与を受けた場合は、その翌年の確定申告時期に申告手続きを行い、贈与税が生じる場合は納付する必要があります。

相続時精算課税制度を使用する場合は確定申告時にその旨の届出が必要になります。

また、手続きは特に要しませんが、固定資産税評価額×3%の不動産取得税が贈与受けた人に課されます。

当事務所の名義変更手続きサポート

当事務所では、不動産を生前贈与した場合の名義変更手続きサポートを行っております。

贈与契約書の作成、登記手続きに必要な書類のご案内及び作成などを弊所で行います。

生前贈与サポート手続き費用
55,000円~(税込み)

※贈与契約書に貼付する収入印紙代、登録免許税(固定資産税評価額×2%)等の実費が別途必要になります。

住所変更登記が必要な場合や、権利証を紛失された場合などは別途お見積もりになります。

住所変更手続き費用 13,200円(税込み)
※費用の他に、法務局に納めるの登録免許税、申請の郵送料が必要になります。

権利証を紛失した場合の本人確認情報作成費用
55,000円~(税込み)

生前贈与と死因贈与の違い

生前贈与が生前に贈与をすることに対し、お亡くなりになることを条件として贈与の効力が生じる死因贈与という手続きがあります。

生前贈与は、原則として贈与が成立した日に贈与した者の権利が贈与を受ける人に移転しますが、死因贈与では、死亡日に贈与した者の権利が移転します。

贈与者が死亡した時点で効力が生じるところは、遺言と同じですが、遺言と異なり全文自署する必要や、厳格な様式、家庭裁判所における検認などの煩雑な手続きを要しません。

なお、不動産を死因贈与する場合は、「始期付所有権移転仮登記」という仮登記により不動産の権利を押さえておくことができます。

まとめ

生前贈与は、年間110万円以内の贈与は非課税である暦年課税と、暦年課税にあわせて2,500万円の特別控除額まで非課税の相続時精算課税の制度を用いることができます。

生前贈与は口頭でも効力が生じますが、贈与の証に贈与契約書を作成しましょう。

土地や建物などの不動産を生前贈与した場合は、贈与受けた人に名義変更の登記をするのが一般的です。

死因贈与という贈与契約もあり、不動産を死因贈与する場合は、所有権移転の仮登記を申請することができます。

千葉市若葉区都賀の司法書士つついリーガルオフィスでは、贈与契約書の作成、不動産の名義変更手続きのサポ―トを行っています。
※なお、税申告の手続きは税理士の業務になりますので税理士をご紹介いたします。

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